【概要】
別ページで製作したDSPラジオの音を大きくするために使えるヘッドフォンアンプを製作します。
簡単な回路ですが、9V電池だけで結構高音質な音で聴くことができます。
音を大きくするために「増幅」機能を持つオペアンプを使います。
ブレッドボードを使って作りますのではんだ付けは不要です。下記写真が完成した状態です。
【ヘッドフォンアンプの基本構成】
DSPラジオをヘッドフォンで聴いたとき音が小さいと感じます。これは、DSPラジオICの出力電圧が、
最大80mVという低い電圧であるため、ヘッドフォンを十分駆動できないためです。
ではどれくらいの電圧が必要かというと、ヘッドフォンの駆動電力は数mW以上あれば十分の音量で
聴くことができます。
通常のヘッドフォンの内部抵抗は30Ωから100Ω程度となっていますから、例えば1mWの出力に必要な
電圧はオームの法則 W=IE=E2/Rから、
電圧 = √(1mW×30Ω) = 173mV 電圧 = √(1mW×100Ω) = 316mV となり、
必要な電圧は173mV~316mV以上となります。
したがって、DSPラジオの80mVではちょっと駆動力が不足し小さい音になってしまいます。
そこで、DSPラジオの出力電圧を大きくする必要があります。この電圧を大きくすることを「電圧増幅」する
といいます。この電圧増幅機能をもつ使いやすい素子にオペレーショナルアンプ(オペアンプと略称)が
ありますので、これを使ってヘッドフォン用の電圧増幅器(アンプ)を作ります。
今回製作するのは音楽などの可聴域の周波数帯域(20Hz~20kHz)を持つ交流ですので、
信号として交流だけ扱う「非反転交流増幅器」としてオペアンプを使います。
これを実現する回路が下図となります。
通常のオペアンプの基本回路と異なるのはC2というコンデンサとR5とR8という抵抗が追加されて
いることです。C2は交流だけ通し直流は通しませんので、これで交流増幅器となります。
信号は図の下側のように入力信号と相似で振幅が大きくなった信号が0Vを中心にして出力されます。
増幅率Aは基本と同じですから A=R7/R6+1 = 10k/2k+1 = 6 となります。
ここでコンデンサC2と抵抗R5を追加すると交流だけが通過するようになるのですが、C2とR5により
ハイパスフィルタ回路が構成されてますので、ある特定の周波数以上の信号だけが通過することになります。
この周波数fcは、オペアンプの入力インピーダンスが十分大きくて無視できるものとすると
fc = 1/(2πR5×C2) で決まります。
上図の例で計算すると、fc = 1/(6.28×100×103×0.68×10-6) ≒ 2.3 Hz となり、2.3Hz以上の交流が
増幅されて出力に現れます。
高い周波数の限界はオペアンプ自身の周波数特性で決定され、今回使ったオペアンプでは、8MHzという
高い周波数特性を持っていて、6倍の増幅率で使うと8MHz/6=1.3MHzが6倍の増幅率を保つ限界となります。
これでこのヘッドフォンアンプの特性は2.3Hzから1.3MHzまで一定の増幅率を保つことができることになります。
人間の可聴域の周波数帯域は20Hzから20kHzという範囲ですから、全く問題ない特性となります。
R8の役割は、負荷としてヘッドフォンを接続するとき、ヘッドフォンに流れる電流が大きくなり過ぎると、
オペアンプの駆動能力を超えてしまって音が歪んでしまいますので、この電流を制限するためのものです。
しかし、実際にヘッドフォンに加わる電圧はこのR8とヘッドフォンの内部抵抗とで分圧されてしまいますから、
ヘッドフォンの音を小さくすることになってしまいますので余り大きくすることはできません。
【回路定数の決め方】
最終的に製作する回路図は下図となります。ステレオにするためオペアンプ回路が2組構成されています。
入力を増幅して出力するため、6倍の増幅率とし、VR1とVR2の可変抵抗で音の大きさを自由に可変
できるようにしました。
この回路では電源が工夫されています。オペアンプにはプラスとマイナスの両電源が必要となりますが、
これを9Vの電池1個だけで構成するため、同じ抵抗で2分割した中央をグランドとして使うようにしています。
これで見かけ上+4.5Vと-4.5Vの両電源が構成できることになります。
【部品と組み立て】
ヘッドフォンアンプの組み立てに必要な部品は下表となります。【動作チェック】
記号 品名 値・型名 数量 入手先 VR1,VR2 2連可変抵抗 2連基板付き VR9B-2P 1 アイテンドー IC1 オペアンプ OPA2134PA 1 秋月電子通商 R1,R5 抵抗 100kΩ 1/4W 2 R2,R6 〃 2kΩ 1/4W 2 R3,R7 〃 10kΩ 1/4W 2 R4,R8 〃 47Ω 1/4W 2 R9,R10 〃 4.7kΩ 1/4W 2 C1,C2 積層セラミックコンデンサ 0.47μF~1uF 50V 2 C3,C4 オーディオ用電解コンデンサ 100uF~330uF 16V 2 J1,J2 ステレオジャック ミニジャックDIP化キット 2 その他 ブレッドボード EIC-801 1 ジャンパワイヤ EIC-J-L 1 バッテリ 006P 9V電池 1 電池スナップ ビニール線付き 1 ヘッドフォンまたはアクティブスピーカ 任意
これらの部品をブレッドボードに組み立てていきます。
最初にオペアンプICを中央付近に実装してから、順次周囲の部品を実装していきますが、
大型部品は位置だけを決めておき、配線が完了してから実装します。
小型部品と配線のしかたは、下記写真のようにします。オペアンプの一番ピンから順番に
配置、配線していきます。
この回路では電源がプラスとマイナスの2種類ありますので、両端の電源配線用のラインを
プラス用とマイナス用に分けて使いますので、これを間違えないように注意する必要があります。
C3とC4は大型部品ですので最後に実装します。
配線用の線材ですが、短いものが少なかったため、長いものを切断して作成しながら配線
しましたので、同じ色のものが多くなっています。
回路図を元にブレッドボードに組み立てたところが下記写真となります。
完成したら動作試験をしておきます。出力ジャックにヘッドフォンかイヤフォンを接続して、【DSPラジオを直接接続する】
電池を接続します。
これで、入力ジャックのLピンかRピンに指を触れるとブーンという音が聞こえ、ボリュームを
回すと音量が変化すれば正常に動作しています。
早速実際の音楽で動作テストをしてみましょう。
パソコンのヘッドフォン出力と製作したヘッドフォンアンプの入力ジャック同士をステレオプラグの
ケーブルで接続します。
この状態でパソコン側のメディアプレーヤで音楽を再生すれば大きな音で聴こえると思います。
動作テストが完了したら、前回製作したDSPラジオを接続しましょう。
接続には、まずブレッドボードを連結します。これには、下記写真のようにブレッドボードの凹凸を
合わせて凹側を上からスライドさせて押し込みます。これで凹凸部が接続されて連結されます。
連結できたら、ヘッドフォンアンプの入力ジャックとDSPラジオの出力ジャックを抜き取り、
下記写真のように3本の線でLチャネルとRチャネルの入力と出力を接続し、さらにグランド(GND)
同士を接続します。
これでヘッドフォンからステレオでFM放送が聴こえるはずです。
DSPラジオだけの場合より大きな音で結構高音質な音が聴こえるはずです。
ボリュームで音量が調整できますが、それでも音量が小さめの場合には、回路図のR4とR8の抵抗を
小さめにします。ただし、このオペアンプの最大出力電流が35mAですので、ヘッドフォンアンプの
インピーダンスが32Ωで出力電圧が最大2Vとすると2V/35mA ≒ 57Ωですから、57-32 = 25Ω以下
にはできません。