【概要】
DSPラジオでヘッドフォンまでは鳴らせますが、スピーカを接続しても音が小さ過ぎて実用にはなりません。
そこでスピーカアンプ用に作られたオーディオアンプICを使い、DSPラジオの出力を大電力の出力に
増幅してスピーカを駆動します。
簡単な回路ですが、単3電池4本かACアダプタで結構大きな音で聴くことができます。
ブレッドボードを使って作りますのではんだ付けは不要です。
下記写真が完成した状態で、スピーカ単体を直接接続した状態です。
【電力増幅とは】
ヘッドフォンアンプでは数mWの出力で十分でしたので、汎用のオペアンプでも十分駆動できました。
しかし、通常スピーカで人が室内で十分な大きさで聴くためには最低でも0.3Wから0.5W程度が必要です。
したがってスピーカを駆動するためには数Wの電力が必要となります。
では、このスピーカを駆動するのに必要な電流と電圧はどの程度必要になるかを考えてみます。
通常のスピーカの内部抵抗は4Ωから16Ω程度となっていますから、例えば8Ωのスピーカを1Wの
出力で駆動するのに必要な電圧は、オームの法則 W=IE=E2/Rから、
電圧 = √(1W×8Ω) = 2.8V 電流は、1W÷2.8V = 357mA となります。
これだけの電流を汎用オペアンプで駆動するのは困難です。
このように電圧と電流の両方つまり電力を大きくすることを「電力増幅」するといいます。
この電力増幅機能をもつ使いやすい素子にオーディオアンプICがありますので、これを使ってスピーカ用
の電力増幅器(アンプ)を作ります。FMステレオが聴けるようステレオアンプとして製作します
このオーディオアンプICも内部はトランジスタで構成されていますが、出力トランジスタが大電流
を駆動できるようになっています。
またオーディオアンプには、回路方式により、アナログ方式とデジタル方式(Dクラスともいう)があります。
今回の製作ではデジタル方式を使うと、ブレッドボードで製作した場合、出力のデジタルパルスにより
DSPラジオに大きなノイズがのってラジオが聴けなくなることがあるので、アナログ方式のアンプを使う
ことにしました。
このような目的に使用可能なアナログ方式のオーディオアンプICには多くの種類があり、出力可能な
電力にも数Wから数10Wと幅広い範囲のものがあります。
今回はブレッドボードで製作しますので、あまり大きな電力は電流が大きくなり過ぎてブレッドボードでは
供給できなくなりますので、数W以下のものを使うことにします。
このような条件で選択すると、多くのICが8ピンという小さなもので十分です。
これらの中からもっとも簡単な回路で構成できるものを選択しました。
【オーディオアンプICのピン配置と使い方】
選択したのは、Phillips Semiconductors製の「TDA7052B」というもので、【回路設計と組み立て】
用途は「Mono BTL audio amplifier with DC volume control」となっています。
つまり、モノラル用の直接スピーカ駆動(BTL)のオーディオアンプで、DC信号で音量制御ができ、
テレビやパソコン用モニタ、ポータブルラジオなどの1Wの音声出力用となっています。
このICは8ピンでピン配置とピンの機能は下図のようになっています。
このオーディオアンプICの内部構成と基本接続回路はデータシートでは下図のようになっています。
入力にはコンデンサ0.47μFを挿入して直流を遮断し、交流だけつまりオーディオ信号だけ
通過させるようにしています。入力ピンに入力されたオーディオ信号は、初段のアンプで
音量制御されたあと、差動信号に変換され、2系統の出力アンプで電力増幅されて
スピーカのプラス側とマイナス側のプッシュプル出力となります。
この2つの出力ピンに8Ωのスピーカを直接接続するだけとなっています。
電源は1種類で、4.5Vから18Vまでの範囲で選択できますのでかなり自由がききます。
IC内部の温度異常の保護回路や、出力ピンのショート保護回路も内蔵されていますので、
安心して使うことができます。
このアンプは出力がプラスとマイナスのプッシュプルで出力されていて、無音状態では両方の
出力が0Vとなりますので、直接スピーカに接続しても問題ないようになっています。
このような接続方法をBTL(Bridged Transformer Less)と呼んでいます。
BTL接続でない場合のスピーカの接続は下図のようになります。
BTLではなく単一電源でプッシュプル駆動しない場合は、出力に電源電圧の1/2の直流電圧が
常時出力されることになりますので、そのままスピーカに接続すると大電流がスピーカに流れて
しまいます。
この直流電圧を阻止し、音の交流だけを通過させるようにするため、コンデンサを挿入しなければ
なりません。
すると、このコンデンサとスピーカのインピーダンスでハイパスフィルタを構成することになって
低音が制限されてしまいます。
しかもスピーカのインピーダンスが8Ωと小さいので、低音を十分出力するためには大容量の
コンデンサが必要となってしまいます。
さらに、フィルタとなることにより高域で発振する可能性があるため、それを防止する回路も
必要となってしまいます。
BTL接続ではこのような余分な部品が必要ありませんから、簡単な回路で広帯域のオーディオ
信号を安定に出力することができます。
基本回路を基にして作成したステレオアンプの回路図が下図となります。【動作テスト】
ほぼ基本回路そのままですが、ステレオにするためアンプICを2個使います。音量調整は
IC内部にもありますが、入力回路にボリュームを挿入して調整することにしました。
ステレオで左右同時に音量調整できるように2連のボリュームを使います。
スピーカ出力には端子台を使って、ねじ止めでスピーカの配線の取り外しや接続が簡単に
できるようにしました。
電源には、DCジャックを使って、電池ホルダからの直接供給だけでなく、DC5Vから9V程度の
ACアダプタなどからも供給できるようにしました。
この回路の組み立てに必要なパーツは下表のようになります。
これらの部品をブレッドボードに組み立てていきます。最初に2個のオーディオアンプICを
中央のラインをまたぐようにして少し間をあけて実装してから、順次周囲の部品を実装していきます。
部品は非常に少ないですからすぐ組み立てできると思います。
大型部品は位置だけを決めておき、配線が完了してから実装します。
この段階の組み立て状態が下記写真です。
これに下記写真のような大型の部品を取り付けます。ピンの配置を間違えないようにします。
この大型部品はDIP化キットとして購入した場合ははんだ付けが必要になります。
大型の部品すべてを実装して組み立てが完了した状態が写真-4となります。
完成したら動作試験をしておきます。【DSPラジオを直接接続するには】
スピーカ用端子台に下記写真のようにスピーカを接続しますが、今回使ったスピーカは、
スピーカ単体の状態のもので、この配線だけスピーカ側をはんだ付けする必要があります。
スピーカボックスとして箱に実装されたものを購入すればはんだ付けの必要はなく、端子に
ねじで固定するだけでできます。
スピーカの接続では、スピーカのプラス側をオーディオICのプラス側出力に接続するようにします。
逆に接続しても壊れることはありませんが、左右のスピーカの片方のプラスマイナスが逆に
なっていると、ステレオを聴いたとき音が中心に集まらず、ステレオ感がなくなってしまいます。
最後に電池を直接ブレッドボードのプラスとマイナスに接続するか、ACアダプタをDCジャックに
接続します。これで、入力ジャックのLピンかRピンに指を触れるとブーンという音が聞こえ、
ボリュームを回すと音量が変化すれば正常に動作しています。
早速実際のDSPラジオで動作テストをしてみましょう。製作済みのDSPラジオのステレオジャックと
アンプの入力ジャック間をステレオプラグケーブルで接続すればFMラジオをスピーカで聴くことが
できます。
製作済みのDSPラジオを直接接続しましょう。接続には、まずブレッドボードを連結します。
これには、ブレッドボードの凹凸を合わせて凹側を上からスライドさせて押し込みます。
これで凹凸部が接続されて連結されます。
連結できたら、ステレオアンプの入力ジャックとDSPラジオの出力ジャックを抜き取り、
下記写真のように2本の線でLチャネルとRチャネルの入力と出力を接続し、さらに
グランド(GND)同士を接続します。これでスピーカからステレオでFM放送が聴こえるはずです。
【スピーカボックスの製作】
製作したスピーカは裸の状態でそのままでは音が小さく、特に低音が出てきません。
この訳は、下図のようにスピーカは前側だけでなく、後ろ側にも音が出ていて、スピーカの
前側の音と後ろ側の音では空気の振動が逆向きになっているためです
(これを位相が180度ずれているといいます)。
つまり、裸のスピーカでは、後ろ側の音が直ぐ前側に回り込んで来て、空気の振動が
逆向きで重なり音を打ち消してしまうため音が小さくなってしまいます。
この回り込みを避けるには、スピーカの後ろ側の音が前に回り込まないように、広い板に
丸穴をあけてスピーカを取り付ければよいことになります。このような板をバッフル板といいます。
実際にバッフル板を取り付けてみました。これが下記写真となります。
これだけでもしっかりとした音で聴くことができるようになります。
バッフル板は大きければ大きいほどよいのですが、これは現実的ではないので、下図のように
箱にして閉じ込めてしまいます。これがスピーカボックスで通常エンクロージャと呼んでいます。
つまり閉じ込めるわけです。
こうすれば後ろ側の音は出てこなくなりますから打ち消されることはなくなり、本来のスピーカから
出ている音を聴くことができます。
上図の左側のように単純に閉じ込めるだけのエンクロージャを密閉型といいます。
これに対して、右側のようにスピーカの箱の前に穴をあけ、さらにここにパイプを取り付けた
形状のエンクロージャがあります。このような形状のものをバスレフ型エンクロージャと呼んでいます。
穴の大きさとパイプの長さを調整して、スピーカの後ろ側から出た音の位相が180度反転してから
外に出るようにします。
こうするとスピーカの後ろ側から出た音が加算されて聴こえることになり低音がより強く聴こえる
ようになります。
スピーカやエンクロージャにより音の聴こえ方は大きく変わります。 多くの種類のスピーカが
市販されていますし、エンクロージャを自作することも可能です。
しかし、エンクロージャの自作には、スピーカのサイズに合わせた最適な箱の大きさや、
バスレフ型のパイプや穴の大きさの設計が必要となります。
これらの設計が簡単にできる設計ツールがフリーで提供されており、製作方法も下記のような
サイトで公開されていますので、木工工作になりますが、スピーカのエンクロージャの自作も
できます。
「自作スピーカ設計プログラム」
http://www.asahi-net.or.jp/~ab6s-med/NORTH/SP/index.htm
「エンクロージャ設計支援」
http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:http://www7b.biglobe.ne.jp/~yakushi/
「自作スピーカー・ギャラリー」
http://www.dokidoki.ne.jp/home2/yh1305/