実用ステレオアンプ

 最近のICの高機能化で比較的自作が易しくなった
ステレオメインアンプを作ってみました。




【概要】

  最近のICの高機能化で比較的自作が易しくなったステレオメインアンプを作って
みました。
簡単といっても左右それぞれ最大15W以上の出力が出せる本格的アンプです。
 まずどんなアンプにするかですが、家庭で余裕たっぷりに聞けるステレオで、
入力ソースとしてはテープ、CDデッキやMDデッキとします。
これらはいずれも出力帯域がフラットになっているので、プリアンプが無くても直接
メインアンプだけで十分きれいな音質で聞くことが出来ます。

 家庭用のアンプとすれば、通常は0.5W程度でしか鳴らさないはずですから、
5W程度の出力があれば十分余裕を持って歪の少ない状態で使うことができます。

【ICの選択】

 まずICの選択をします。最近のオーディオ用で使いやすいのは、カーステレオ用の
ICです。これらのICは、歪率も小さく、さらに出力短絡や、熱などに対する各種の
保護回路や、ミューティング機能などが内蔵されていて、周辺部品が非常に少なく
出来るようになっていますので、自作には持って来いのものです。
 この中から、実力で5W×2を余裕で出せるものをということで、東芝のTA8210を
選択しました。下図がTA8210の規格です

この規格から分かることは、絶対最大定格が大きく丈夫そうだと言えます。
また、電圧利得が50dB前後もあり、100倍以上の増幅が出来ることになりますので、
入力が小さな電圧のままでも十分の出力を出すことが出来ます。従って、メインアンプ
としては前段のアンプをすべて省略でき、直接ICに外部からの入力信号を加えることが
出来ます。

【電源の構成】
 メインアンプは出力電力が大きくそれに相当する電源を必要とします。また、電源の
品質がそのまま音質にも影響しますので、電源の設計は重要といえます。
 しかし、ここでは難しく考えないで、基本は電源のインピーダンスを低くすることと考え、
単純なブリッジ整流平滑回路で構成します。
まず必要な電力ですが、概算で考えてみると、片側5W出力とすれば、両チャンネルで
10W、これにアンプの効率を仮に40%程度と考えれば、全体の消費電力としては
10W÷0.4=25W程度となるはずです。
 これに相当する電源トランスを考えます。仮に10V×2.5Aが適当な容量の電源
トランスですので、とりあえずこの概算で電源トランスを決め、ブリッジダイオードで電源
回路を構成するとすると、ICへの直流電源供給は、およそ電圧は13V、供給最大電流は
1.5A となります。以下はこれを条件として考えて行きます。

 このICで消費される電力はTA8210の規格表にある下図のグラフから、ほぼ電源電圧
によって決まるようになっています。電源電圧を仮に13Vにしましたから、図から消費
電力は約17Wと求められます。


この17Wの発熱を周囲温度が50℃でも問題無く使えるようにするためには、放熱が
必要です。
 この放熱板の大きさを求めます。まず下図のICの許容電力のグラフで、50℃の時に
17Wを消費できるようにするためには、下図に赤線で書き加えたような傾きの放熱特性
が必要となります。

これを数値で表すと線の傾きを求めれば良いことになるので、
  (150℃−25℃)/20W =6.3℃/W となります。
従って放熱板の熱抵抗は、ICの熱抵抗が1.5℃/Wで、接触熱抵抗を0.4℃/W
とすれば
 6.3−1.5−0.4=4.4℃/W となります。
これを3mmのアルミ板で実現するには、放熱設計のページの図から約110cm平方と
求められますので、余裕を見ると10×15cm程度の放熱板が必要になることになります。
この放熱板は実際にはL型の角材を流用して作るか、市販のヒートシンクを使うのですが、
ちょっと大きすぎてしまいます。
 また、ここで電源電流を再度確認すると、出力5W+5W、ICでの消費17Wで、合計27Wと
なります。従って電圧が13Vとすれば2A程度必要なことになり、今回選択した電源トランス
では電流が不足します。結局最大出力は電源の能力から3W+3W程度が限界となってしまう
ようです。5W+5Wにするためには2次側が10V3A以上の出力のトランスが必要となって
しまいます。
放熱板も電流容量も不足してしまうので、少し設計変更をして、供給電圧を10Vまで下げる
ことにします。すると上図のグラフからICの消費電力は、11Wまで下がるので、これで放熱が
かなり楽になります。再度上図で傾きを求めて計算すると、
 (150℃―50℃)/13W=7.7℃/W      7.7−1.5−0.4=5.8℃/W
この熱抵抗の放熱板を求めると、3mmの板厚で 約85平方cmとなり、10×8.5cm程度
で良くなりますので余裕を見て10×10cm程度の放熱板とします。
電源容量としては、全体として11W+5W+5W=21Wの電力があれば良くなるので、電源は
10V2Aとなります。ブリッジ整流でこれを供給するとすると、電源トランスとしては、結局8V
3A程度となり、やはり3Aクラス以上の電源が必要です。
市販の電源トランスでは8V3Aが手ごろなものになります。


【回路構成】

下図が全体の回路です。
まずIC周りの回路はデータシートのままで何も問題無いのでそのまま使います。
そして、入力部分には、入力信号を絞れるようにボリュームを追加します。
さらに、好みにより、高域を少なめにして柔らかな音にするため、簡単な高域カットフィルターを
スイッチ経由で接続する回路を追加して、高域カットをする/しないが選択できるようにします。
 電源回路は、単純なダイオードブリッジと電解コンデンサだけの整流平滑回路とします。
この電解コンデンサの容量は、これで直流の品質が決まってしまうので十分大きめのものを
使います。
10V1.5Aとすると10,000μF25V程度のものが必要です。しかし、基板取り付け型の
電解コンデンサでは4700μFが最大ですので、これを3個並列接続して使うことにしました。
耐圧も余裕をみて35Vとしました。
図で中央の点線で囲んだ部分をプリント基板にして、大部分の部品を実装してしまいます。
これで残るのはパネルやケースに固定しなければならないものだけとなります。
  (下記回路図はクリックすれば拡大表示します。)



【基板の製作】

上記回路図の点線部分を基板にします。
パターン図作成で注意が必要なところは、グランドと電源の供給ルートで、パワーアンプ部分
には大電流が流れますので、太いパターンで接続します。
またプリアンプ用グランド(ピン5)と電源(ピン9)への電源配線はコンデンサのマイナス側と
プラス側からそれぞれ他とは独立のパターンで配線しパワー用のパターンとは分離します。
こうして出来上がったパターンが下図のようになります。



 基板の組み立ては、ICには後で放熱板を取り付けますから回りの部品が邪魔にならない
ように注意します。
ブロック電解コンデンサは大型ですのでしっかりとはんだ付けして動かないようにします。
あとは電解コンデンサの向きに注意して組み立てれば部品数も少ないので問題なく出来る
でしょう。この基板組み立て完成状態が下記の写真となります。
放熱板は最後に取り付けます。電解コンデンサは大型ですので、ぐらつかないようにぴったり
と基板に実装しリード線をしっかりはんだ付けします。

  


【ケースへの実装】

 ケースにはタカチのMB-5という簡単なアルミの箱型のものを使いました。
 ケースの穴あけが完了し各部品が用意できたら、それぞれの部品をケースに取り付けます。
トランスは重いので最後の方で取り付けますが、ねじが緩まないようにスプリングワッシャを
使います。基板は底面がケースと接触しないように、カラースペーサで浮かして取り付けますが、
その前に放熱板をICに直接取り付けます。
このときICの接触面にはシリコングリースを塗布して熱伝導を良くしておきます。
基板の取り付け穴周囲のグランドパターンは、ねじでケースとショートしないように大き目のドリル
刃で削り取っておきます。これは、ケースもグランドなので電気的にはショートしても何も問題は
無いのですが、問題はノイズです。ケースと余分なところで接続すると1点アースの原則がくずれ、
ブーンという大きなノイズが発生してしまいますので注意が必要です。

 取り付けが完了したら配線です。電源トランスと基板の間、スピーカと基板の間は、いずれも
大電流が流れますから太い線材を使いますが、あとは通常の太さのもので大丈夫です。
ボリュームとフィルター用スイッチの間はコンデンサと抵抗を直接端子にはんだ付けします。
電源インジケータ用の発光ダイオードも基板の端子に接続します。
オーディオでは、入力部分は信号レベルが低くノイズに弱いのと、今回は特にノイズ源となる電源
トランスと配置が近くなってしまいますので、2芯のシールド線を使いノイズ対策をしておきます。
下記写真が配線完了した完成写真です。



また正面パネルの実装はメインアンプだけですので簡単にしました。スピーカの取り付け端子は
裏面に実装しています。
前面には、ボリュームえお真中に取り付け大き目のつまみとして格好をつけます。
電源ランプにはブラケット付の発光ダイオードを使いました。あとは電源スイッチと高音カット用の
スイッチだけです。



下記が完成状態で、ケースのカバーには放熱用の穴を十分な数あけるようにします。







  目次ページに戻る