USB接続のディジタルマルチメータ(ハードウェア編)

 マイクロチップ社の二重積分型のA/Dコンバータを使って
 4-1/2桁のディジタルマルチメータを作ってみました。
 PICのプログラムはPICROSでマルチタスク化しました。


【概要】

 マイクロチップ社がPIC以外に力を入れているアナログ系のICの中から、二重積分型
のA/Dコンバータで、4-1/2桁のBCD出力のものがありましたので試作してみました。
電圧を100μVの分解能で安定に表示でき、ノイズにも強く使い易いICであることが
確かめられました。
 制御用にはPIC16F877を使い、USBN9603のUSBコントローラでパソコンとフルスピード
のUSB接続が出来ますので、データ収集やグラフ作成には便利に使えます。
 PICのプログラムには「PIC用リアルタイムOSのPICROS」を使ってマルチタスク化しました
ので、意外に簡単にマルチメータが出来ました。







【機能仕様】

今回のディジタルマルチメータの機能仕様は下表のようになっています。これをPICと
A/DコンバータとUSBコントローラで実現しています。
特に変わった機能として、ディジタルマルチメータでは校正用の基準に苦労するのですが、
今回はこの校正用に使える高精度基準電圧源として、「LH0070」というナショナル
セミコンダクタ社の高精度基準電圧ICを一緒に組込み、いつでも校正確認が出来るように
しました。。
このICは古いので入手困難な場合には、新しい同様のICとして、アナログデバイス社から
AD587」というICが出ています。
項  目 機 能 仕 様 備  考
測定項目と分解能 電圧 3レンジ構成のオートレンジ切替え
   2Vレンジ 1.9999V 100μV分解能
  20Vレンジ 19.999V 1mV分解能
 200Vレンジ 199.99V 10mV分解能

電流 1レンジ構成
 2Aレンジ  1999.9mA 100μA分解能

その他(直接入力)
 2Vレンジ  1.9999V 100μV分解能
入力インピーダンス
100MΩ以上
1MΩ
1MΩ

入力インピーダンス
1Ω

入力インピーダンス
100MΩ以上
校正用出力 校正用の高精度基準電圧
 10.000V  精度±0.1%以下
  1.000V  精度±0.5%(約)

TYP±0.03%
校正可能
表示 16桁2行の液晶表示器  
外部出力 USB Ver1.1 フルスピード
セルフ電源
 コマンドにより電圧、電流の測定可能
コントローラは
USBN9603
電源 外部より安定化されたDC電源供給
 +12V〜+15V 最大100mA
 


【DMMの全体ハードウェア構成】

DMM全体のハードウェア構成は下図のようになっていて、A/Dコンバータを実装した
アナログ部の基板と、PICを実装したディジタル部の基板を別々にしています。
これらを小型のプラスティックケースに実装しましたが、電源部を外付けにしましたので
楽に納めることが出来ました。








下図はケース内部の様子で2枚の基板を収納したところです。

上側がディジタル部、下側がアナログ部です。
アナログ部の部品が大型のものが多いので
結構の面積を必要としています。




【アナログ部の詳細】

まず、上記の機能仕様を満足させるため使ったマイクロチップ社のA/Dコンバータ
は下記のようなものです。

  TC-7135 4-1/2 Digit Analog-To-Digital Converter

  ★英文ドキュメントダウンロード(pdf形式です)

簡単な仕様は下表のようになっています。
項 目 仕 様 概 要 備  考
A/D変換方式 二重積分型
クロックは外部供給
積分型なので基本的に動作は遅いが
高精度でノイズに強い 
変換速度 クロックに依存する
 100kHzのとき 2.5回/秒
 120kHzのとき 3.0回/秒
 250kHzのとき 6.2回/秒
1200kHzのとき 30.0回/秒
商用電源ノイズ対策のため通常は50Hzと
60Hz両方の対策が可能な100kHzを使う。
50Hz対応だけで良ければ250kHzでも可能
A/D変換精度 分解能 4-1/2桁
(1.9999 BCD出力)
マルチプレックスBCD出力
セグメントデコーダドライバ付加により
ダイナミックスキャンの表示が単体で可能
ゼロ自動校正 誤差 10μV以下
温度ドリフト 0.5μV/℃以下
 
ディジタルIF TTLコンパチ
マイコンとのインターフェース可能
RUN、STROBEによりマイコンから制御
可能
電源 ±5Vの2電源  

 この表から判るように、ディジタルマルチメータ用に開発されたもので、これに
セグメントデコーダドライバなどの幾つかの部品を追加すれば、これだけで測定器
が完成できるようになっています。
下図はデータシートに解説されている応用例で、4-1/2桁のLED表示の電圧計に
なっています。この回路例から、TC7135にはリファレンス電圧とクロックを外部に
設ける必要があります。







 これをベースに作成したアナログ部の回路は下図のようになっています。
まず、クロックは100kHzとし、タイマICであるLM555で生成しています。100kHzに調整
できるように可変抵抗で周波数調整を可能としています。
 マイナス5Vの電源には、マイクロチップ社のDC/DCコンバータICである、TC7660Sを
使いました。これは結構便利なICで、入力した電源と同じ電圧の極性を反転した電圧
を出力します。つまり1.5Vから12Vまでの任意の入力電圧から−1.5Vから−12Vの
極性の反転した同じ電圧を出力してくれます。最大許容電力が約700mWですので
−5Vの時は数10mAは取り出せますが、電圧安定度が悪いので、電流は多くは望め
ません。
 リファレンス電圧用には、基準電圧用ICであるLM385の1.2Vのものを使い、ピッタリ
1.0000Vのリファレンス電圧にするため可変抵抗で調整できるようにしています。
積分用や入力フィルタ用のコンデンサであるC3,C4,C5,C6には、本来は漏れ電流の非常
に少ないポリプロピレンコンデンサが良いのですが、大型になってしまいますので、
もう少し小型のメタライズドフィルムコンデンサを使いました。
 左上にあるリレーを使った回路は電圧レンジのときのオートレンジ切替え用の回路で
2V、20V、200Vを、A/Dコンバータからのオーバーレンジとアンダーレンジの信号で
PICの制御の元に切替え動作をします。
正確な1/10、1/100の分圧回路とするため1%の抵抗と可変抵抗で微調整が
出来るようにしています。
 左下の10Ωの抵抗群は、電流測定用の抵抗で、10Ω1%1/2Wの抵抗を10個並列
接続して、1Ω1%2Wの抵抗として使います。これで2Vの電圧を発生する2Aまでの
電流を測定することが出来ます。また過電流の安全対策のため2Aのフューズを直列に
挿入しています。さらに大電流が流れる配線は独立になるよう測定用の配線とは別に
しておきます。そうしないと配線での電圧降下分が測定誤差となります。
 中央下の回路は5V電源と校正用に使う高精度基準電圧回路です。LH0070というICは、
極めて高精度な基準電圧用ICで、10Vの出力に対し、Typ0.03%、Max0.1%の精度
が保証されていますので、私たちアマチュアが使うメータとしての精度はこれで十分だと
思います。基準用に1Vを作るため1/10の分圧回路を追加しています。ここにも微調整
ができるように可変抵抗を追加しています。
 回路としてはアナログのグランドをディジタル回路のグランドとは独立にして、入力の
端子のところで一緒に接続します。こうしないとディジタル回路のノイズで測定値が安定
しなかったり、誤差を生じます。








下図はアナログ部の基板の外観です。

コンデンサやリレーなど大型部品が多いので
面積はありますが、配線は簡単です。
漏れ電流が問題になるので基板にはガラスエポキシを
使いました。


電流測定用の抵抗群です。熱対策と高精度抵抗
を使うため10個を並列接続しています。



レンジ切替用のリレー回路です。制御はPIC側から
行います。
高精度基準電圧ICは校正用の電圧出力です。



積分用のコンデンサには漏れ電流の少ない
メタライズドフィルムコンデンサを使いました。



 下記から回路図とパターン図がダウロードできます。IVEX社のWinDraft、WinBoardで
お使いください。

  ★アナログ部の回路図とパターン図



【ディジタル部の詳細】

ディジタル部はPIC16F877を使っています。回路は特別なものも無いので簡単に
なっています。下図が回路図です。上側の2個のトランジスタはリレーのドライブ用
です。
ポートEにロータリースイッチの状態を入力し電圧、電流の切替えを検知します。
ポートDは液晶表示器専用になっています。
ポートCにはUSBコントローラを接続しています。
ポートAとBを使ってA/Dコンバータを接続し制御しています。RB4をSTROBE信号
の割込みに使っています。(ポートBの状態変化割込み)







PICとA/Dコンバータとのインターフェースは下記のようにしました。
まず、RUNの信号をPICからの開始指令として使います。
TC7135ではこのRUNパルスが一度検知されるとA/D変換を開始し、その完了までは
次のRUNパルスは無視します。またRUN信号がHighのままだと連続でA/D変換を
実行します。
TC7135がA/D変換を完了すると、外部にSTROBE信号を出力します。
このSTROBEが出た時には、BCDデータがB1-B8の4ビットに出力されていますので、
STROBEをPICへの割込み信号として使い、その割込み毎にBCDデータを入力します。
またA/D変換後の最初のSTROBEの時には、D5信号がHighとなっているので、これで
最初の割込みであることを判定し、そこから5回の割込みで終了とします。
BCDデータは上位桁から順次出力されます。





以上の回路を組み立てたものが下図のようなディジタル部となっています。

実装部品が少ないので小型の基板に
収まっています。




USBコントローラはフラットパッケージですので
はんだ面に直付けで実装しています。



下記から回路図とパターン図がダウロードできます。IVEX社のWinDraft、WinBoardで
お使い下さい。

  ★ディジタル部回路図、パターン図


【ケースへの実装】

ケースには小型のプラスチックケースを使いました。前面パネルがちょっと込み合って
いるので注意が必要ですが、残りは楽に実装できました。
下図は前面パネルの実装ですが、液晶表示器は、ねじで前面パネルに固定しています。
スペーサで挿入しないと基板が歪んでしまいますので適当な高さのスペーサ使います。






ロータリースイッチ周りの配線が混み合うので注意が必要です。

【調整・校正方法】  (12/22)

 本機の校正は下記のように行います。

(1) レンジ切替えスイッチのコネクタをはずす。これによりレンジが電圧計測の20Vレンジ
  に固定されます。
(2) 10Vの校正用出力を測定し、その時の値をメモしておきます。
(3) 1Vの校正用出力を測定し、1Vの調整用ボリュームを回して表示が前項のメモ値の
  1/10になるようにします。これで1V校正用出力が正確な1Vになったことになります。
(4) レンジ切替えスイッチのコネクタを挿入して元に戻してから、校正用1V出力を測定
  します。そしてこの表示が1.0000Vになるようにリファレンス電圧調整用ボリューム
  を調整します。 これでA/D変換器の校正が完了したことになります。
(5) 次に校正用10V出力を測定します。そしてこの時の表示が10.000Vになるように
  1/10分圧回路の可変抵抗を調整します。これで正確に1/10になったことに
  なります。
(6) 1/100の分圧回路の調整は、強制的に1/100の構成になるように一時的に
  リレー回路をストラップ等で動作させ、10V校正用出力を測定して正確に010.00V
  の表示になるように1/100分圧回路の可変抵抗を調整します。

以上で校正は完了です。



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