電源回路の設計法


 我々が実験や趣味で使う電源は、比較的小容量で小型の物ですが、
電子回路にとっては全てのエネルギーを電源から供給してもらって
いるので、電源の善し悪しが即動作の安定性や精度の善し悪しを左右
することになるので、重要な要素です。
ここでは、電源回路の考え方と設計方法について説明しています。


【安定化電源の方式と特徴】

私たちが趣味で使う安定化電源の方式としては大別すると
シリーズレギュレータ方式とスイッチングレギュレータ方式に2分されます。
これらの特徴をまとめると下記のようになります。

A)シリーズレギュレータ
(1)シリーズレギュレータの構成
 シリーズレギュレータの基本構成は下図のようになっています。
この中で保護回路には、実験用としては省略されるものもあります。



(2)シリーズレギュレータの特徴
 ・ 効率が悪いので発熱が多く放熱が必要となるため大型で重いものになる
 ・ 商用電源周波数のままなのでトランスが大型で効率が悪い
 ・ ノイズが非常に少ないので理想的な電源に出来る
 ・ リプルが比較的少ない
 ・ 構成が簡単で設計はやさしい

B)スイッチングレギュレータ
(1)スイッチングレギュレータの構成
 スイッチングレギュレータの基本構成は下図の様になっています。



 一般的には回路はシリーズ方式よりは複雑になりますが、最近は
 専用のICの中に取り込まれる部分が多くなり、部品点数は激減しています。
 そのため我々アマチュアでも簡単にスイッチング方式の電源を作ることが
 可能になっています。

(2)スイッチングレギュレータの特徴
 ・電力変換効率が良いので発熱が少なく小型軽量に出来る
 ・交流周波数を高い周波数に変換するためトランスが小型、高効率に出来る
 ・スイッチングノイズがあるためノイズ対策が必要
 ・リプルが比較的多い
 ・回路が複雑で設計し難い、しかし最近は専用ICが多く開発されており
  比較的やさしく作ることが出来るようになった。


この様な特徴から、我々が趣味や実験世界で電子回路を扱う時にはシリーズ
レギュレータの方が扱いやすいので以下はシリーズレギュレータの設計方法
について説明します。



【整流平滑回路】

 安定化電源には必ず含まれている構成要素で電源には必須の回路要素です。
なぜ必要かというと、我々が使う電源は商用交流電源(AC100V)が元になります。
しかし我々が必要なのは低い電圧(数Vから数十V)のDC(直流)です。
そこでまず、トランスを使ってAC100V電圧を低い電圧に変換します。その後
これをダイオードで「整流」して直流(正確には脈流)に変換します。
つまりダイオードの1方向にしか電流を流さないという特性を使います。
さらにその後で、コンデンサを使ってその電気を蓄積する能力によって「平滑」
し、きれいな直流に変換します。こうして初めて直流電源として使えるものに
なるのです。
整流回路にはトランスとダイオードの組み合わせ方によって下記の様な種類
があり、それぞれに特徴がありますが、最近は大部分ブリッジ方式が主流
となっています。
(1)半波整流回路
 回路構成と出力波形は下図となります。


  
   入力AC100Vの波形        整流直後の波形      



  平滑後の直流波形(脈流)

つまり出力波形のように、ダイオードの働きで、交流の半サイクル分の間
だけ出力に電流を流すことが出来、出力しながらコンデンサに充電します。
お休みの半サイクルの間は、このコンデンサに溜まった電力から外部に
供給します。
明らかな様に、半分しか電力を有効活用できないので、当然効率が悪く
出力波形も波打った形のリプルが多い波形になります。


(2)センタータップ型全波整流回路
 センタータップ型全波整流回路の基本構成は下図の様になります。
 トランスにあるセンタータップを使うためこう呼ばれています。


 回路動作は半波回路が二つ付いたと思えば良く、下図の様に半波整流
 回路で捨てていた下半分の時間にも同じ極性となって直流化されます。
 従って効率もその分良くなります。 リプル電圧も半分になり良くなります。

   整流直後の波形         平滑後の波形            
 



(3)ブリッジ型全波整流回路
 全波整流回路のもうひとつの方法で、ダイオードを4個組み合わせて実現
 します。この場合にはトランスにセンタータップが不要なのでトランスの
 小型化が出来ます。 基本回路は下図の様になります。また出力波形は
 基本的には上記全波整流回路と同じになりますが、ダイオードによる
 電圧ドロップが2個分となることが異なります。
 


さらに都合良いことに、センタータップ付きのトランスを使うと1個のダイオード
ブリッジでプラスマイナス両方の直流を出力として取り出すことが出来ます。
この時はダイオードに電圧ドロップも1個分となり効率良く出力を取り出すこと
が出来ます。

【全波整流回路の設計】

ここでは、工作で最も良く使う、下図の様な全波整流に3端子レギュ
レータを使ったシリーズドロッパー方式の電源回路の簡易設計方法
を説明します。
この方式はあくまでも実用的な簡易のもので、正確さはありません
が、我々が趣味で使う範囲では十分実用的なものです。
   


(1)トランスの容量と電解コンデンサの容量の決定
 この決定には下記要素が関連しています。

   直流出力電圧:Vout
   REGの最低入出力電圧差 = 3V
   リップル電圧
   ダイオードドロップ電圧(2個分)= 2V 

 これらを加味した上で、必要な出力電圧と電流から算出したものを
 下記表にまとめてあります。
 この表から、トランスはこの値以上のもので、電圧は余り超えないもの
 を選びます。必要以上に電圧の高いトランスを使うと、レギュレータにその
 余計な分が負担となり熱を発生します。
 電解コンデンサもこの値以上で近い標準値のものを選びます。
 電解コンデンサは容量が大きい方が、リップルが少なくなりますから
 大きめを選択します

                      出典:トランジスタ技術 SPECIAL

Vout

3.3V

5V

12V

15V

Vac

5.6V

7.1V

13.4V

16.1V

C1耐圧

10V

16V

25V

35V


Io

100mA

200mA

0.5A

1A

Iac(A)

0.16

0.32

0.8

1.6

C1
μF

3.3V

1800

3300

10000

22000

5V

1200

2200

6800

12000

12V

680

1200

3300

6800

15V

470

1000

2200

4700

   Vac:トランス出力電圧   Iac:トランス出力電流
   Vout:直流出力電圧    Io :直流出力電流
         
(2)3端子レギュレータの選定
 固定電圧出力タイプのレギュレータには下表の様な種類がありますので、
 これらから適当なものを選択します。

種別

正電源用

負電源用

78L

78M

78

79L

79M

79

入力電圧

5〜18V

35

35

35

-35

-35

-35

24V

40

40

40

-40

-40

-40

出力電流(A)

0.15

0.5

1

-0.15

-0.5

-1

最大損失(W)

0.5

7.5

15

0.5

7.5

15

動作温度範囲

-30〜75℃

最小入出力電圧差

3V


 使う時には、出力電流が上表の値を超えない様にすることと、
 出力電流×ドロップ電圧で求められる損失が上表を超えない様に
 使う必要があります。場合によっては放熱器を付けないと耐えられ
 なくなることもあります。

(3)保護回路部品の追加
 3端子レギュレータを使う上での保護は2点あります。

  ・発振防止用のコンデンサ
   0.01μF程度のセラミックコンデンサを、レギュレータの近くに
   電解コンデンサと同じ接続で追加します。
 
  ・逆負荷時の保護用ダイオードの追加
   万一入力が無く、出力側から電圧をかけられた時、レギュレータ
   が破壊しないように、整流用ダイオードをレギュレータの入出力
   間に逆向きに接続します。(上記回路図参照)

  


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