トランジスタ回路の基本設計法


ICが全盛の時代ですが、トランジスタもちょっとしたドライブなど使われる
場合もまだ多く残っています。 われわれアマチュア工作でも簡単な回路
で増幅やドライブ回路が構成できるので、まだまだ現役で使うことが多く
あります。
ここでは、難しい論理的な話は抜きにして、動作させるために必要なことを
説明します。


【トランジスタの規格】

規格表の見方は別ページにありますのでそちらを参考にして頂くとして、
規格で大切なポイントは下記4点となります。

(1) 何ボルトまで使えるか
  コレクタ・エミッタ間最大定格電圧(Vceo)で見ます。
  実際には、これの1/2以下の電圧で使うようにします。
(2)何アンペアまで流せるか
  これは2つの観点から考えます。
  まず コレクタ最大定格電流(Ic) は絶対超えられない値です。
  これも実際の使用では。1/2以下で使います。
  もう一つは、最大全損失(Pt)で何ワットまで使えるかということです。
  これの考え方は、 使う電圧×流す電流 で考え、やはり1/2以下で
  使うようにします。
  しかし、この全損失は放熱板の有無と、周囲温度で極端に変わるので、
  グラフで確認して使います。
(3)何倍の増幅が出来るか
  直流電流増幅率(hfe)で単純に入力電流が何倍になって出力されるかが
  分かりますが、非常にMinとMaxの差が大きいので、Minで考えて
  おく必要があります。
(4)どれくらいの周波数まで増幅できるか
  これには、利得帯域幅積(ft)で判定しますが、その判定は、下記のように
  します。
    使用可能な周波数 = 利得帯域幅積(ft) ÷ 直流電流増幅率(hfe)


ディジタル回路での使用法


【ディジタル回路での使い方】

トランジスタをディジタル回路で使う目的には、主に下記3通りがあります。
以下で各項目ごとに使い方を説明します。

 (1)大きな電流や高い電圧負荷の制御
   セグメント発光ダイオードのコモン、モータやリレーのドライブ
   電源のOn/Off制御、照明灯の制御
 (2)電圧レベルの変換
   光センサや音センサの信号増幅変換
 (3)直流電圧の増幅
   A/D変換入力への信号増幅、 センサー出力の増幅

【大きな負荷制御】

大きな負荷とはどういうことかというと、数10mA以上の電流が流れたり、
5V以上の電圧が必要な負荷で、ディジタルICでは直接ドライブすることが
出来ない負荷をいいます。
例えば、モータの制御や、リレーやソレノイドコイルなどのドライブです。

このような時には、トランジスタをうまく使います。この時の使い方の基本
的な回路構成は下図のようにします。
まず大きく負荷の電流を引き込んでやるのか、流し込んでやるのかに
よって(a)、(b)の2つの使い方があり、それぞれに使うトランジスタもNPN
型とPNP型に使い分けが必要です。
次には、トランジスタの選定ですが、この場合にはドライブする電圧と
流す電流を気にすれば良く、電流増幅率や周波数特性は余り気にする
ことは無いでしょう。






各々の動作原理は、(a)の場合には、ディジタルICをHighの出力にすると、
4.5V以上の出力電圧になりますから、抵抗を通してトランジスタにIbが流れ
トランジスタがOnとなり、Icが流れて負荷に電流が流れます。
逆に、ディジタルICの出力がLowとなると、トランジスタのVbe(0.6V程度)より
小さな出力電圧(0.2V程度)となりますので、Ibは流れなくなりますからトラン
ジスタがOffとなり、負荷の電流も流れなくなってしまいます。

(b)の場合には逆に、ディジタルICの出力がHighになると、トランジスタはOffと
なって負荷の電流は停止し、ディジタルIC出力がLowとなるとトランジスタが
Onとなって負荷に電流が流れるという逆の動作になります。

次には、R1とR2の抵抗値の決定方法ですが、トランジスタがOnとなるとき、
  ベース電流(Ib)=負荷電流(Ic)÷直流電流増幅率(hfe)
で決まる電流Ibよりやや大きい電流が流れるような抵抗とします。
この抵抗が無いと、ディジタルICに過大な電流が流れることになり、場合に
よっては、ディジタルICが発熱で壊れることもあります。

例: 負荷電流が100mAとし、hfe=100とすれば、Ib=1mAとなる。
   ICの電源を5Vとすると、Vbeは約0.6Vで一定ですから
   R1=R2=(5V-0.6V)÷1mA = 4.4KΩ → 余裕を持って3KΩとする。

《注意》
  トランジスタでドライブする負荷が、モータやリレーなどのコイルの時
  には、逆起電力に注意する必要があります。つまり、コイルの電流を
  On/Offする場合、その瞬間には、逆向きの高い電圧がコイルの両端
  に発生します。
  これを何もしないでおくとこの逆起電力がトランジスタのコレクタ
  エミッタ間にかかり場合によってはトランジスタが壊れることもあります。
  そこで、これを防止するため、下図のようにダイオードをコイルの両端
  に並列に接続します。
  さらにこのとき発生する高い電圧が雑音となってディジタル回路が
  誤動作することもありますので、このダイオードはコイルに出来るだけ
  近い位置にとりつけ、逆起電力をショートして流してしまいます。


【電圧レベル変換としての使い方】

各種のセンサ類で出力電圧が低く、ディジタルICでOn/Offを直接判定
出来ないような時、トランジスタで電圧増幅をしてレベル変換を行います。
この時には結局直流電圧増幅器として使うことになりますから、本来の
増幅回路として構成します。
 しかし、On/Offの判定さえ出来れば良いので回路としては簡略化した
もので十分となります。

実際に使う回路としては下図のようになります。入力となるセンサ等の
出力電圧が常時はほぼ0Vであり、検出時に0.6V以上あるときは(a)図で
0.6V以下の時は(b)図のようにします。少し回路が異なります。

(a)の回路では、センサの出力が常時0Vに近いとすれば、トランジスタは
OffとなってディジタルICの入力はほぼ電源電圧近くなりHighとなります。
センサ感知時に出力が0.6V以上になれば、トランジスタがOnとなります
から、ディジタルICの入力はほぼ0VとなりLowとなります。

この時のR1、Rcの抵抗値の決定方法は、まずRcは、ディジタルICの入力
電流はほんの数10μA以下と少ないですから、トランジスタがOffの時に
Rc経由でディジタルICに電流が流せるように数10KΩ以下の抵抗とします。
多くは、5KΩ〜20KΩ程度が使われます。

R1はセンサが負荷として流せる電流によって決まります。余り小さくすると
センサの負荷が重くなってセンサ感度が下がったりしますが、多くは数10
KΩまでは大丈夫で、10KΩから50KΩ程度が使われます。
但し、センサによっては最適負荷抵抗値という規格があったりしますので
その時はそれに合わせた抵抗値を使います。
もっともセンサの負荷としては、このR1とトランジスタの入力抵抗が並列
になります。このトランジスタの入力抵抗は数10KΩ程度です。

(b)の回路での抵抗値の決め方はR1とRcは同じですが、R2は可変抵抗
の数10KΩとして、常時はトランジスタがOff、センサ感知時にOnとなる
ように調整することが必要です。
このときのトランジスタのベースの電圧は0.6Vよりやや低めのはずです
から、R1とR2の比が、0.6対Vccの比とほぼ同じくらいになるように決め
ます。R1とR2とトランジスタ入力抵抗(数10KΩ)の3者の並列抵抗が
センサの負荷となるのは同じですので、センサの負荷ドライブ能力を
超えないようR1が数KΩ(多くは2KΩから5KΩ程度)の抵抗になるように
決めます。








センサの出力信号が1msec以下となるような短いパルスを扱う時には、
使うトランジスタの周波数特性を考慮する必要がありますが、それ以外
の時には周波数特性は気にせず、使う電圧と直流電流増幅率を気に
すれば良いでしょう。
電流はディジタルICへの出力ということであれば数10μA程度のほんの
わずかしか必要としませんから気にしなくてもOKです。



   


アナログ回路での使用法


 

【アナログ増幅基本回路】

アナログ信号を増幅するための基本回路は、大部分がエミッタ接地回路と
呼ばれる回路が使われます。
さらに出来る限りきれいに入力信号をそのまま増幅するように考えます。
その回路は下図のようにしますが、ここの回路定数の決定方法は下記の
手順で行います。
ここであらかじめ使う電源電圧(Vcc)は決まっているものとし、使うトランジスタ
の電流増幅率(hfe)は100とします。
トランジスタの選定には、周波数特性が重要で、利得帯域幅積(ft)の高い
ものを使う
必要があります。

例: ftが200MHzでもhfeが100だと、200MHz÷100=2MHzとなって
   実際に使える周波数は2MHz程度になってしまいます。
   従って、10MHz以上の周波数で使うおうとすると、ftは1GHz以上必要。




(1)コレクタ抵抗(Rc)の決定
 これの決定には、「負荷にどれほどの電流(Ic)を流す必要があるか」が必要
 です。
 パワーが必要なドライブの時は数100mA程度が必要ですが、通常は数mA
 から数10mA程度が一般的です。
 そうするとRcは無信号時の出力電圧が電源電圧の1/2のところとして
   Rc = (Vcc/2) ÷ Ic
 で求めます。      (例:Vcc=5V Ic=2mAとすると Rc=1.25KΩ=約1KΩ)

(2)エミッタ抵抗(Re)の決定
 この抵抗は増幅が安定にきれいにできるようにする働きがあります。
 また入力信号が1V以上になっても出力が飽和しないようにする働きもあり
 これで信号をきれいに増幅することが可能になります。
 値の決定は、ラフに考えて良く、Rcの1/5〜1/10程度の値にします。
  (例:1KΩ÷5= 200Ω)

(3)ベース抵抗(R1とR2)の決定
 まず必要なベース電圧(Vb)を求めます。 無信号時にはReにはIcの電流が
 流れており、かつベースエミッタ間電圧は約0.6Vでほぼ一定ですから、
   Vb = Ic×Re+0.6 となります。  (例: 2mA×200Ω+0.6=1.0V)
 次に必要なベース電流(Ib)を求めまが、これは電流増幅率(hfe)から簡単に
 求められます。
   Ib = Ic ÷ hfe     (例:2mA÷100 = 0.02mA hfe=100)
 ここで、ベース抵抗には、このベース電流の10倍以上の電流を流すように
 して、ベース電流の変化に対し、ベース電圧が余り大きく変動しないように
 します。 そうすると10倍とするとR1、R2は下記で求められます
    R1 = Vb÷(10×Ib)
    R2 = (Vcc-Vb)÷(10×Ib)
 (例: R1=1V÷(10×0.02mA)=5KΩ   R2=(5V-1V)÷10×0.02mA=20KΩ)

(4)カップリングコンデンサ(Cin)の値の決定
 交流信号の増幅の場合には直流電圧を前段と無関係にするため
 カップリングコンデンサ(Cin)が必要になります。
 この値は、入力信号の最低周波数(fc)に対し十分無視できるだけの
 インピーダンスになるようにすることで決めます。
 入力用のCinは、トランジスタの入力インピーダンスをRinとすると
    fc > 1÷(2π×Rin×Cin)  となるように決めます。
 また入力インピーダンスRinはおよそ下記となります。
    Rin = R1とR2の並列抵抗値
  (例:fcを20Hzとすると、Cin > 1/(6.3×4KΩ×20Hz)=2μF→Cin=5μF)

(6)バイパスコンデンサ(Ce)の決定
 エミッタのコンデンサも使用する最低周波数に対して十分低いインピー
 ダンスになるように決めます。
   Ce > 1÷(2π×fc×Re)  で求めます。
 (例: Ce>1/(6.3×20Hz×200Ω)=40μF → Ce=100μF)

《参考》
  直流の増幅の時には、CinやCeは必要が無いので、使わなくてOKです。
   

  


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